創作田園地帯 | 楽式論

第四章 複合三部形式

これまで単純なリート形式のみを扱ってきた。

X - Y

上記の楽式は典型的な二部形式で、 ここまでは X と Y は楽節であると解説してきた。 ここで応用をして複雑化してしてみよう。 つまり X や Y を楽節ではなく楽式であると解釈するのである。 こうすると X や Y には他の(楽節から成る)楽式を代入できることになる。 例えば上の二部形式において、 X に A - B という二部形式を、 Y に A' - C - D という三部形式を代入してみると、

(A - B) - (A' - C - D)

という楽式が得られる。 ここでは分かりやすいように括弧でくくってあるが、 これは別になくても構わない。

A - B - A' - C - D

いずれのように書こうとも大枠は二部形式なのである。 ただし前章までに出てきた単純な二部形式と区別して、 より小さな楽式から構成される 二部形式を複合二部形式と呼ぶこともある。 前章に三部形式の実例として、

[ A ] - [ B - A ]

を挙げたが、これは複合二部形式と見なすこともできる。 即ち [ X ] - [ X' ] という二部形式において、 X に A という一部形式を、 X' に B - A という二部形式を代入すれば上の楽式になる。 そのため上記楽式を三部形式といっても二部形式といっても 間違いではないということになる。

上記のような簡単な場合は偶然によるものが多いだろうが、 こういった解釈の分かれる楽式を敢えて採用することがある。 作曲家が意図して中間的な楽式のを用いた場合、 これを折衷形式またはユーバーガングスフォルム(Übergangsform)と 呼ぶ場合がある。折衷形式についてはソナタ形式のところで再論する。

さて複合形式が本領を発揮するのは複合三部形式においてである。 なぜなら三部形式は楽式としての秩序に優れているために、 この楽式をより大きな楽曲へも応用されることが多いからである。 複合三部形式とは要するに、

X - Y - X

という楽式で、しかも X と Y とがそれぞれ二部形式ないし三部形式なのである。 試しに X に A - B - A という三部形式を、 Y に C - C' という二部形式を代入してみると、

(A - B - A) - (C - C') - (A - B - A)

となる。これまでに比べて格段に複雑な楽式になっている。 各部分に反復記号を加えたり、 或いは要所要所に挿句や小結尾などを加えると、 楽曲は更に大規模で複雑なものになって行く。

今一つ複合三部形式の例を挙げよう。

(A - B - A) - (C - D - C) - (B - A)

この複合三部形式は、 呈示部が三部形式、トリオが三部形式、 再現部は呈示部の変形としての二部形式から成る。 言うならば X - Y - X' という楽式の応用である。

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制作/創作田園地帯  2002/08/20初出
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