創作田園地帯 | 楽式論

第三章 三部形式

一部形式、二部形式に続いて挙げられる楽式は三部形式である。 三部形式は名前の通り、

A - B - C

という三つの楽節からなる楽式であり、 そして実際に上のような楽式の曲も多く見受けられるものの、 三部形式で最も用いられ又効果が大きいのは 第三部の C に 第一部 A と同じにしたものになる。 即ち、

A - B - A

という楽式であり、 単に三部形式といった場合はこの楽式を指す場合が多々ある。 この形の三部形式では第一部の A を呈示、 中間の第二部 B を対照、そして第三部 A を再現と呼ぶことがある。 特に中間部 B は一般にトリオと呼ばれている。

さてこの三部形式、 見方を変えれば二部形式 A - B の後に A が再び配されているだけであるが、 これが見事に二部形式の不都合を解決しているのである。 というのも二部形式は一部形式の冗長さに変化を加えたものだけれども、 一方で統一感が損なわれがちであり、 そのため A - A' という妥協策が存在する。 しかしこれでは当初の目標である充分な変化から一歩遠ざかってしまっている。 そこで劇的な変化とそれでいて満足する統一感を得ようとして三部形式が登場する。 つまりトリオで劇的な変化をした後に主題を再現することで統一を謀るのである。 従って三部形式のトリオは 相当に突飛なものであっても曲としてまとまることが可能であり、 この意味で三部形式は楽式として洗練されているといえよう。 実際の使用頻度や応用の範囲からいっても、三部形式は古典楽式の完成形と 評しても過言ではない。

また再現部をより明確にするために、 呈示部を反復して耳に印象づける方法もしばしばある。 楽式で示せば、

[ A ] - B - A

となる。

余談になるが三部形式の類型は音楽の随所に見付けることができる。 例えば和声学における主和音、属和音、主和音と巡るカデンツ、 ヴィヴァルディに代表される協奏曲の急緩急のテンポなのである。 視点の差は様々だが 三部形式は音楽の根本原理ともいえるほど浸透した概念なのである。

ところで三部形式を用いた際に再現部が呈示部と同一だと退屈であると思うならば、

A - B - A'

とすれば良い。この第三部 A' を修飾的再現と呼ぶ。 三部形式といえば寧ろこちら形を思い浮かべる人も多いと思う。 いずれにしろ本質的な違いはない。

さて三部形式には実に多様な形で楽曲に登場する。 例として反復を用いてみると、

[ A ] - [ B - A ]

のような亜種も考えられるし、 トリオが主題の展開である、

A - A' - A

のような形もあるだろう。 或いは三部形式の原点にさかのぼって、

[ A ] - B - C

のような楽式を考案することもできる。 ともかく三部形式は楽式として完成しているだけでなく、 それだけでかなり複雑な構成も可能なのである。 故に三部形式の理解には楽聖らの作品という原典に触れることが不可欠であろう。

これまでに一部形式、二部形式、そして三部形式という楽式が登場したが、 これらは総称して歌曲形式と呼ばれている。 ドイツ語で Liedform とつづることからリート形式と 呼ばれることもある。ちなみにドイツ語では Lied の d のような 語尾の有声音は無声音に変化するので、 リードではなくリートというのがドイツ語の音に近い表記になる。 名前からいえば歌曲のための形式であるけれど、 当然リート形式は器楽曲にも用いられる。

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制作/創作田園地帯  2002/08/20初出
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