創作田園地帯 | 楽式論

第二章 二部形式

一部形式は余りに単純なために 敢えて楽式として扱うことに利点を見い出すことは難しい。 より有意な楽式として二部形式を挙げることができる。 単一の楽節のみの一部形式と違って、 二部形式は異なる二つの楽節から成り立つ。 その楽式は、

A - B

と表すことができ、 これは楽節 A の後に楽節 B が配置されていることを示している。 A と B という別の記号が用いられているということは、 両者が全く別の楽節、 換言すれば音楽的に別の素材から構成されているということである。 もしも A と B が同一であればそれは一部形式であって二部形式ではない。 要するに A と B は互いに別個のものでなければならないのである。

別の楽節を用いる目的はひとえに冗長さを回避するためであり、 これが単調な一部形式との決定的な相違である。 つまり一部形式で少しでも長い曲にしようと思うと、 同じ楽節を何度も繰り返すしか方法がないのであって、 これだとすぐに聴衆に飽きが生じてしまうだろう。 そこで別の楽節をつなげて変化を求めたものが二部形式なのである。

よって B は A から大きく離れれば離れているほど、変化が大きければ大きいほど、 二部形式という名に相応しい、といえるかも知れない。 けれどもそれでは曲としての統一性が損なわれるという反対の支障が生ずる。 故に二部形式といえども程々の変化に抑えておかなければならず、 そのために実際の曲では B の部分が A と何らかの関連性を持っていることが多い。 A と B の関連性が大きい場合、この楽式を、

A - A'

と表記する。 A と類似した部分がある楽節、 例えば同じ動機に基づくとか、同一の楽句を内包しているとか、 そういった A から派生した楽節という意味で、 A にダッシュ記号を付して A' と書く。 A' は A とは異なるけれども関連性を持っているといった意味で、 A と全く一緒ではないということである。 A と A' とが全く同じであると、執拗に繰り返すが、一部形式なのだ。 従って A - A' というのは一部形式の冗長さを打破しつつ、 A - B において見られる必要以上の変化を抑制しているのであり、 この理にかなった構成のために二部形式といえば A - A' というぐらい 高頻度で用いられる楽式である。

なお A' 全体が A から導出されたものである場合、 これを A の変奏、或いは展開であると呼ばれることがある。 これらに対しては元の A を主題と呼ぶのである。

さて一部形式では楽節を反復することができた。 これは二部形式でも同様で、 例えば、

[ A ] - B

は二部形式であるし、言うまでもないと思うが、

A - [ B ]

も二部形式であることに違いない。 特に前者のように A の部分が 二回あるものはバール形式と呼ばれこともある。 これはドイツ語の Barform の音訳である。 また特記すべきは、

[ A - B ]

という楽式であって、違和感を覚えるかも知れないが、 これも二部形式なのである。 これは、二部形式の曲を幾度反復して演奏しても二部形式という呼び名に変わりない、 という考えを発展させた解釈であり、 当然ながら挿句などがちりばめられたとしても二部形式に相違ない。

ただし実際の器楽曲では、

[ A ] - [ B ]

という楽式が最も多いようである。

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制作/創作田園地帯  2002/08/20初出
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