創作田園地帯 | 楽式論

第六章 ロンド形式

一貫して主題が続く中で、 合間ごとに色々な独奏が挿入された形式がある。 楽式で書けば、

A - B - A - C - A - D - A - E - A … X - A

となる。この楽式をリトルネロ形式と呼び、 主題の A は合奏(トゥッティ)で奏され、 挿入される B, C, ... , X は独奏(ソロ)で奏されるのが典型とされる。 独奏部分は技巧的で即興的なパッセージなのが通例である。 反復の回数は決まっていないが、最後は主題の A を再現させて終わる。

この楽式の発祥であるが、 極端な例としてプロ野球の応援風景を思い描いてもらいたい。 野球の応援というのは応援するチームの攻撃する場面で、 太鼓やラッパに手拍子や声を乗せて行う。 最も簡単には一定の主題 A を何度も繰り返すという方法で良いが、 これでは一回の攻撃の間ずっと同じなので応援する方としても飽きてくる。 そこで打者ごとに応援歌を作り、次々と応援を換えていく行くのである。 これで飽きがこないようになるだろうが、 けれど一方で応援歌を知らない人が応援できないという不便がある。 選手ごとの応援歌では覚えていない者も多いのも当然である。 以上二案の妥協案としてリトルネロ形式が存在する。 つまり選手ごとの応援歌と不動の主題を交互に配するのである。 主題の方はもちろん合奏であり、 選手ごとの応援歌は知っている者だけが歌うのである。 余り適切な例ではないものの雰囲気はつかめるかと思う。

さてリトルネロ形式の特徴を抽出してみると、

A - B - A - C - A

という楽式が得られる。 このような形式はロンド形式の範疇に含められ、 上記はロンド形式の中でも最も小さい楽式であるので、小ロンド形式又は単純ロンド形式と呼ばれる。 ロンド形式はフランスのクラブサン楽派のロンドーから発展した形式であり、 リトルネロ形式から直接に生まれた訳ではない。

ロンド形式は三部形式に C - A が延長されたと考えることもできるし、 或いは C をトリオとする三部形式と見なすこともできるだろう。 だがロンド形式が三部形式と異なる点は、A が三回以上も反復される点であり、 その分三部形式よりもくどい感じがあるものの、 一方で次々と新たな楽想が登場することで表現力を豊かにすることが可能である。 上の楽式を小ロンド形式というということは、 更に大きなロンド形式も存在する。

A - B - A - C - A - B - A

これは大ロンド形式或いは複雑ロンド形式などと呼ばれ、 単にロンド形式といった場合は寧ろこちらの楽式を指す場合が多い。 なぜならロンド形式の中ではこちらの楽式の方が多用されるからである。 というのも C をトリオと見立てれば、即ち、

(A - B - A) - C - (A - B - A)

とすれば複合三部形式に見立てることができる。 しかも提示部と再現部もまた再帰的に三部形式を成している。 このように楽式の中で最も美しいとされた三部形式と合致するため、 中規模以上の古典作品において好んで用いられた楽式である。 大ロンド形式は近代ロンド形式とも称される。

三部形式と見立てた場合は B よりも C の方が A から離れているのが普通だろう。 実際の楽曲においては三部形式かロンド形式かで迷う場合もあるが、 やはり決定的な違いは A が幾度も出現することと、 その出現の仕方に見られる。 またロンド形式は楽式として割合に自由であるので、 変形や拡張されて多様になり、 多くの楽曲に応用されている。

/ 目次 /


制作/創作田園地帯  2002/08/25初出
無断転載を禁じます。リンクはご自由にどうぞ。
Copyright © 2002-2005 Yoshinori SUDA. All rights reserved.