創作田園地帯 | 和声学

第一章 三和音

これより長音階に代表される調性組織における和声現象を学ぶ。 その根底を支えるのは倍音共鳴であり、この理論の祖はラモーだといわれる。 即ち伝統的な三度累積和音の和声学である。 一応、次の本に沿って話を進める。

下総皖一著「和声学(新版)」(音楽之友社)

この本は一つ一つの譜例が分かりやすく、 また構成もたいへん良くまとまっていて使いやすい。

倍音

電子的な特殊な楽器を除けば、 全ての楽器は或音を鳴らすと同時にそれよりも高い音が鳴っている。 基準となる鳴らしたい音を基音いう。 基音と同時に鳴る高い音は、 振動数が基音のちょうど整数倍になるので 倍音と呼ばれる。 例えば低いハの音を鳴らした場合、次のような倍音が同時に響くことになる。

倍音を低い方から、第二倍音、第三倍音、第四倍音、というふうに呼ぶ。 基音と第二倍音は完全八度であり、第二倍音と第三倍音は完全五度の関係である。 つまり或音を鳴らした時、その音には同時に完全八度高い音が含まれており、 更にそれより完全五度高い音も含まれているのである。 倍音の含み具合、どの倍音がどれだけの音の大きさで鳴るか、 が楽器の音色を決める要因の一つになっている。

和音

一つの音を鳴らす、これは単音である。 しかし高さの異なる二つ以上音が同時に奏されれば、 単音とは違った表情を見せるだろう。 即ち和音とは複数の音を合成したことで得られる、 音楽的な表情である。

完全一度や完全八度だけが一時に鳴らされても和音ではない。 確かにこれらも単音とは異なる表情を持っている。 だが一度や八度は非常に良く調和するので、 和声学上は和音とは見なさないのである。

三和音

三度音程を二個積み重ねた和音を三和音という。

最も低い音を根音といい、 順に二番目を、根音と三度関係にあるから、三音という。 同様に一番高い音は、根音と五度の関係にあるから、五音である。

三度には長三度と短三度の二種類があるから、 三度音程を二個積み重ねるには次の四種類の組合わせが考えられる。

  1. 長三度+短三度
  2. 短三度+長三度
  3. 短三度+短三度
  4. 長三度+長三度

楽譜にすると例えば、

譜例の1の三和音を長三和音という。 同様に2を短三和音、3を減三和音、4を増三和音と呼ぶ。 根音と五音は五度音程の関係にある。 長三和音では根音と五音が完全五度の関係になる。 和音の種類と各音の音程をまとめると次のようになる。

  1. 長三和音、長三度+短三度(完全五度)
  2. 短三和音、短三度+長三度(完全五度)
  3. 減三和音、短三度+短三度(減五度)
  4. 増三和音、長三度+長三度(増五度)

長三和音は倍音列の第三、第四、第五倍音にちょうど一致する。 つまり長三和音は、自然現象で生ずる音程と同じ音程しか含んでおらず、 響きが自然で明るく澄んでいる。 一方の短三和音は、音程自体は長三和音と同じであるにしても、 長三和音とは配置が異なっているので、 長三和音よりも暗い感じがする。

長三和音も短三和音も協和音程だけで成り立っている。 このような協和音程だけで構成されている和音を協和和音という。

これに対して減三和音は減五度という不協和音程を持っているために濁った響きがある。 増三和音も増五度という不協和音程のためにひどく濁っている。 このような不協和音程を含む和音を不協和和音という。 不協和和音は響きが鋭いので余り使用されないし、 たとい使用されても不協和和音のすぐ後に協和和音を持ってきて、 不快な濁りから自然な和音へ続けなければならない。 このように不協和和音から協和和音へ連結することを不協和和音の解決と呼ぶ。 言い換えれば、濁った不協和和音は必ず解決しなければならない、 ということになる。 協和和音は元から澄んでいるために解決は不要なのだ。

主要三和音

長調には三和音が七通り作れる。

それぞれの和音をローマ数字で I, II, III, IV, V, VI, VII のように 記号で表す。 長調には、長三和音、短三和音、減三和音の三種が登場するので、 これら区別するために譜例では、長三和音に横棒を付け、 減三和音には右上に丸印を付けた。 増三和音の場合は右上に十字を加えることとする。 ただしこういった区別をせずに表記する場合もある。

三和音の中でも長三和音が最も明るく自然な和音であった。 故に長三和音である I, IV, V の三種の和音がよく使用され、 これらを総じて主要三和音という。 主要三和音にはそれぞれ名前が付いており、 根音が主音である I を主和音と呼んでいる。 同様に IV を下属和音、V を属和音と称す。

主要三和音以外は使用されることが 少ないので副三和音と呼ばれている。

さてこれから和音の各音を楽譜に配置していくことになる。 三音や五音は位置が換わってもよい。例えば主和音を考える。

譜例の1、2、3のように三音や五音の位置に関わらず、 いずれも主和音であることに変わりはない。 しかし最低音は必ず根音でなければならず、 4や5のように三音や五音が最低音にくると 和音の性質がすっかり変わってしまう。

一般に根音は和音の性質を決める上で最も重要である。 三音は和音に明暗の表情を加える上で大切である。 そして五音は根音を補助する役目を果たしている。

四声体

和声学では伝統的に四声部の混声合唱の形で説明が進められる。 四声とはソプラノ、アルト、テノール、バスであって、 各声部の大体の音域は次のようになる。

ソプラノを高音、アルトを中音、テノールを次中音、バスを低音ともいう。 またソプラノとバスを外声、アルトとテノールを内声という。 上三声部とはソプラノ、アルト、テノールを総称した言葉である。 人声は個人差が激しいので音域は厳密に考えなくて良い、 一応の目安と思っていただきたい。

四声部に三和音を配置するには、 根音か三音か五音かのいずれかの音を二個使用する必要がある。 このように同じ音を重ねて使用することを重複という。 基本的に根音を重複すると良い。

当然ながら低音は根音でなければならない。 根音を重複するのだから、 上三声部で根音と三音と五音を一つずつ割り当てることになろう。 一方で各声部は低音部ほどまばら、高音部ほど密集している方が自然な響きになる。 というのも倍音列に見たように、低いほど粗、高音ほど密である方が、 自然な音色に近い配置になっているからである。 従って譜例の4は余り好ましくない例といえよう。

楽譜は上の譜例のように、低音のみを下段にし、 上三声を上段に書いた方が理解しやすいと思う。 ともかく下ほど広く、上ほど狭くすることが大切である。

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制作/創作田園地帯  2000/07/27初出
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