創作田園地帯 | 和声学

第三章 属七の和音

四和音

三度音程を四つ積み重ねた和音を四和音という。 四和音の構成音を下から、根音、三音、五音、七音という。 四和音は三和音に七音を加えた形をしているので、 一般に七の和音と呼ぶことが多い。 長調には七の和音が七通り作れる。

三和音で使用した記号の右下に7を添えて七の和音であることを示す。 単に7と書いた場合は根音と七音が短七度の関係にあるが、 7に十字を加えた場合は長七度である。 ただし一般には区別せずにいずれも7とだけ書くことも多い。

七の和音は短七度か長七度の不協和音程を持つ不協和和音である。 属音上に七の和音 V7 は、倍音列で見た 第四倍音、第五倍音、第六倍音、第七倍音と同じ音程関係を持っているので、 七の和音の中でも最も響きが自然で使用されることも多い。 この和音 V7属七の和音、または単に属七という。 属七以外の七の和音はあまり使われないので副七の和音、 あるいは副七と呼ばれている。

属七の解決

属七の和音は不協和和音であるから解決が不可欠である。 ここで必要な不協和音の解決は大きく分けて二つある。

  1. 不協和和音の解決。つまり協和和音へ進むこと。
  2. 不協和音程の解決。つまり協和音程へ進むこと。

不協和和音の解決は和声的な満足を得るための解決である。 名前からも分かるように、属七は終止形の中で属和音と同じような働きをするので、 属七は主和音へ解決するのが最も自然である。

不協和音程の解決とは旋律的な解決運動である。 即ち不協和音程を協和音程へと導くのである。 原則としてなるべく静かな旋律進行を心がけ、 同度か順次進行で解決することが望ましい。 属七は根音と七音による短七度、 三音と七音による減五度という二つの不協和音程を持っており、 いずれも解決が必要である。

根音と七音が作る短七度は、 より狭い協和音程に進んで解決しなければならない。 つまり完全八度以外の協和音程に進むのである。

譜例の3や4のように、 根音は四度上昇か五度下降によって主音に向かうのが最も良好である。 というのも根音はバスにあるのが普通であり、V - I のバス進行でも見たように、 根音である属音は主音に進むのが自然だからである。

短七度は配置によっては長二度になる。 長二度の解決は短七度の場合を反対に考えれば良く、 より広い協和音程に進むことになる。 一方が同じ音高のままもう一方だけが動いても良いし、 もしくは根音である属音を主音に導きつつ七音を二度下降させても良い。

三音と七音で作る減五度は、より狭い協和音程に進んで解決する。 減五度は配置によって増四度になるので、 この場合の増四度はより広い協和音程に進む。

属七の和音は四和音であるので重複も省略も不要であるが、 時として五音を省略することがあり、この場合は根音を重複する。 ごく稀に三音が省略される時があり、この場合も根音を重複する。 なお七の和音では、根音と七音が最も重要な構成音であり、 三音を省略することも可能なのである。

根音を重複した際には短七度が二重に存在することになる。 形によっては短七度と長二度が一つずつになる。 いずれの不協和音程もそれぞれに解決が必要である。

根音を重複すると連続八度を起こしやすいので注意して欲しい。 連続を避ける為には一方の根音を動かさずにいると良い。 特に根音が内声にある場合は跳越せずに静かな進行をすべきである。 根音を二つとも主音に動かすと連続八度になるが、 並行で連続することは絶対にいけないが、 反行の連続ならば差し支えない。

主要三和音と属七の連結

主要三和音と属七の和音を連結するには次の形が考えられる。

  1. I - V7
  2. V7 - I
  3. IV - V7
  4. V7 - IV
  5. V - V7
  6. V7 - V

ただし V - VI が余り用いられないように、V7 - VI の進行が 使われることもはなはだ少ない。

まず主和音と属七の連結を考える。

主和音から属七の和音への進行では特に難しい所はない。 譜例の1と2は省略しない形であり、 3と4は属七の五音を省略した形である。 属七の五音を省略して根音を重複すると、 上三声では主和音の五音を属七の根音へと音高も声部も変えずに進行できる。

また上の譜例の1では連続五度があるように見えるが、 連続五度とは完全五度の連続を禁止するものである。 ここでは完全五度から減五度への並行であるから別に構わない。 しかし減五度や増五度から完全五度へと進む場合は、 完全五度の連続と同様の響きを耳に与えるので許されない。

次に属七の和音から主和音への進行を考える。 当然ながら解決を考慮しなければならない。 また属七の五音は主音へと導くのが自然である。

解決運動や五音を主音へ導くことを合わせると、 属七に五音がある場合は主和音に五音がなくなり、 属七で五音が省略された場合は主和音に五音があることになる。 これは絶対にこうなるといったものではなく、 通常の進行を行った場合の話である。 時として両方で五音が省略されることもあるし、 あるいはいずれも五音があるかもしれない。

主和音で五音を省略すると上三声部がバラバラに離れてしまうこと多い。 これを避けるために I - V7 - I という 流れでは、V7 で五音を省略しておく方が都合がよい。 反対に主和音で主音を三つ重複したときは、 次の和音への進行に注意がいるだろう。

なお属七の三音は導音であるから普通は主音へと続く。 だが導音がアルトやテノールのような内声にある場合に限り、 三度下行して主和音の五音に進むことができる。 しかし導音がソプラノにあれば、やはり二度上行して主和音に進まなければならない。

さて下属和音から属七の和音への連結を考えよう。 下属和音と属七には共通音がある。 下属和音の根音と属七の七音である。 これまでと同様に共通音は音高も声部も変えずにつなげると良い。 この場合、続けた先が七音であるので、 このことを特に七音の予備という。 七音は不協和をつくる要因であるが、 この七音へ静かに進行することは不協和をやわらげる効果がある。 下属和音から属七の連結では七音を予備することができる。 七音を予備できるのにしないのは適切ではない。

譜例の1は七音の予備をしていないので良くない。 そこで七音を予備しようと2のように書いてしまうと、 これは連続五度を起こしてしまっている。 従って下属和音から属七の和音の連結では、 譜例の3のように属七の五音を省略する必要がある。

最後に属和音と属七の連結になるが、 これらは同種の和音であり和声的な表情も似ている。 ゆえにこれらは各声部を切り放して自由な連結をすることができる。 しかし前章で述べた同一和音の連結のように、 各声部はなるべくなめらかに進行した方が良いし、 バスは同一音高にとどまるか上三声に反行して動くと良いだろう。

なお属七同士を連結することもできる。 この場合も前章の同一和音の連結を参考にされたい。

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制作/創作田園地帯  2000/08/10初出
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