創作田園地帯 | 和声学

第五章 終止形の展開

代理和音

主要三和音以外の副三和音はもっぱら主要三和音の代わりとして用いられる。 このように同じ機能で同種の役割を持つ和音を代理和音という。

代理和音の中で最も使用される和音は、 下属和音 IV の代理としての II6 である。 II6 は 見かけ上は二度の和音の第一転回であるが、 下属和音と同じバスを持っており、下属和音の五音を二度上昇させた形をしている。 下属和音の五音を二度高くした和音と解すべきであり、 したがって下属和音の根音である下属音、 すなわち II6 の三音を重複させるのが最も良い。 六の和音であるから低音(=三音)の重複はよろしくないように思われるが、 この和音は六の和音という印象を余り持たず、 もっぱら下属和音と同じ役目を果たす。

よって終止形においても下属和音と同じ機能を持っており、 下属和音と同様の場面で使用される。 実際の楽曲での使用頻度では IV より寧ろ多いぐらいである。

頭の中に I - IV - V - I という終止形を思い浮かべて頂きたい。 この終止形の IV の代理として II6 が用いられているのである。 この中で I - II6 の連結では連続五度に気を付けなければならない。 また II6 - V の連結は IV - V と同じように、 上三声部の各声部で II6 よりも V を低くしなければならない。 このためには二つの和音の共通音を切り離してしまっても構わない。

下属和音 IV とその代理 II6 を重ねた和音をラモーの五六の和音と呼んでいる。

ラモーの五六の和音は 二度上の七の和音 II7 の第一転回であ。 下属和音に根音から六度の音を付け足したと考えられ、 下属和音の代理として用いられることがある。

主和音 I の代理としてしばしば六度の和音 VI が使われる。

上の譜例の1では V - I - V - I という進行において、 中間の I を VI に代理させたのである。V - VI という連結では バスを除いて IV の各音を V よりも低く持ってくると良い。 ただし導音がソプラノであれば、 譜例の2のように上行して主音に進むこともできる。 また I - VI および VI - IV の連結では共通音が二つあるので、 非常に静かに進行することができる。

また VII やその第一転回の VII6 が 属七の和音の代理をすることがある。 つまり V7 - I の代わりに VII - I あるいは VII6 - I と なるのである。VIIo の 減五度は不協和音程であるから解決しなければならない。 この和音の根音は導音であるから重複できないし、 解決などによって動きが制限されるのであるから、VII と I のいずれにおいても 三音を重複する必要がある。

同種和音を連結して I - VI や IV - II6 などの進行ももちろん可能である。 これらは元来同じ機能を有しているのであるから、 二つの和音と考えるよりも全体で一つの和音と見なして取り扱うと良かろう。 例えば I - VI ならば大きく主和音とし、IV - II6 なら 大きく下属和音と見るのである。

属七を属和音の代理と見なすこともできるが、 一方が一方の代理和音といったような優劣を付けがたいため、 これらは全く同系列の和音として考えられている。 故に先ほどは VII を V7 の代理だといったが、 これを V の代理だといっても全く問題がない。

終止

和声の動きを停止させることを終止という。 終止は楽曲の最後に用いられるだけでなく、 楽曲の途中の区切りとしても用いられる。 区切りであること明確にするために、その和音を長くのばしたり、 その和音の後ろに休符を置いたり、 あるいはフェルマータで拍子運動を停止させたりして終止を示す。

終止は大きく分けると、完全終止、半終止、変格終止、偽終止の四種がある。

  1. 完全終止(正格終止):属和音から主和音へと進んでの終止。 さらに二つに分類する。
    1. 充分終止:いずれも非転回でソプラノが主音で終止。
    2. 不充分終止:充分終止でないもの。
  2. 半終止:或和音から属和音へと進んで終止。
  3. 変格終止(宗教終止):下属和音から主和音へと進んで終止。
  4. 偽終止:和声的に主和音へ向かいそうなのに 主和音以外に進んで終止すること。

完全終止は楽曲の最後や最終的段落の区切りに使われる終止である。 途中の区切りであれば充分終止と不充分終止のどちらでもよろしいが、 楽曲の最後は充分終止であることが望ましい。 また楽曲の最後には次のような和音進行が慣用的に用いられる。

完全終止では属和音から主和音へと進んだが、 半終止では手前の属和音の所で止めてしまう訳である。 それ故、この終止はその後にも曲が続くことを意識させ、 従って楽曲の途中の終止として適しているといえる。 属和音の前はどんな和音でも良いが、 上の終曲的な終止を模して、 主和音の四六の和音から終止することもある(次の譜例の3)。

半終止には様々な形があり、 例えば属調の属和音から主調の属和音へと進んで終止することがある。

下属和音から主和音へ進んで終止する変格終止は、 主に曲の途中の終止に使われる。 また完全終止した後に続けた形でも使用される。 すなわち V - I と一度完全終止しておいて、 それに IV - I と付け足して終曲するのである。

偽終止は完全終止に見せかけておいて主和音でない和音で終止してしまうのである。 例えば主和音の四六の和音から属七と進んでくれば次に主和音が来ると思う。 ところが主和音ではなくその代理の VI に進んでしまうのである。 偽終止も曲の途中で用いられる。

機能標記

楽曲の分析等には和音記号の代わりに、 全ての和音をT,D,Sの三つに分類した機能標記を用いることがある。 ここで簡単にこれらの記号の意味を説明しておく。

T(Tonic: 主音)は安定を示す和音が持っている機能である。 主和音とその代理和音がTの機能を持っている。 すなわち I や VI などである。

D(Dominant: 属音)はTへ進もうとする強い力を持っている。 Tと反対の意味を持ち、不安定である。 Dの機能は属和音と属七の和音に代表される。 また VII もDの機能を持つ和音である。

S(Subdominant: 下属音)はTやDのようなはっきりした表情を 持っていない。どちらかというとTを延長したような開放感である。 Sの機能は下属和音が最も強く持っている。 これ準じて II やラモーの五六の和音などがSの機能を持つ。

和声現象は次の三つの終止形に要約される。

  1. TDT
  2. TST
  3. TSDT

Dから進んでTで終止すれば完全終止である。 しかしTDやSDのようにDで終止すれば半終止となる。 またSからTへと進んで終止すれば変格終止という。

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制作/創作田園地帯  2000/08/25初出
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