創作田園地帯 | 和声学

第六章 短音階の和音

長音階と短音階では耳に与える感じは大きく異なるが、 理論的には殆ど同一に扱うことができる。 本章では和声の取扱いを短音階にも拡張する。

短音階

短音階の代表はイ調短音階(イ短調)である。 イ短調とは次の音階のことである。

これが短音階の本来の形なので自然的短音階と呼んでいる。 この短音階の導音は主音と全音関係になっている。 導音は主音へ導かれる音であるから、 これが全音進行であっては満足な結果が得られない。 そのため主音と導音を半音関係にするために、 導音を半音だけ上げることが多い。 この音階を和声的短音階という。

短音階でも主音上の三和音を主和音と呼び、 同じように下属和音、属和音と呼ぶことに変わりはない。 これら I と IV と V を主要三和音と呼ぶことも長調と同様である。

短調であっても長調と同じように和音連結を行えば良い。 和声的短音階を使用すると、 属和音は長音階と同じ長三和音だが、 主和音と下属和音は短三和音になっている。 この所為で長調に比べて暗くて哀愁に満ちた感じが強い。

短調はもともと陰湿で歪んだ感じがあるから 三音重複などに長調ほど慎重になることはない。 長調では殆ど使用されない属和音から下属和音への進行も、 短調であればたまに用いられることがある。

属七の和音、六の和音や四六の和音、 属七の転回和音なども長調と同様に使用できる。 また二度の転回や六度の和音が 下属和音や主和音の代理として用いられることも長調の和音と同様である。

和声的短音階の属和音や属七の和音では、 導音を半音上げたために増二度などの増音程の動きを起こしやすい。 転回和音や代理和音から属和音、属七の和音へと進むときは注意が必要である。 特に IV6 - V や VI - V の連結では増音程の動きに気を付けて欲しい。

イ短調とともに用いられることが多いのがハ短調である。

その都度、臨時記号でフラットを書いていると煩わしいので、 調号として最初に書いておけば、導音以外は変化記号が要らなくなる。

調号及び臨時記号を全て取り除けば、そのままハ長調の和音になるのである。

終止形

短調においても終止形の用い方に変わりはないし、 終止の仕方や名称もそのまま通用する。

上の譜例は半終止の例を示した訳だが、 このような短調における下属和音から属和音で終止する半終止を 特にフリギア終止ということがある。

楽曲の最後の完全終止で主和音が長三和音になることがある。

最後の主和音で三音を半音上げているのだが、 普通これをピカルディ三度と呼んでいる。 このような完全終止は十六世紀頃からバロック時代まで見られるが、 かえって終止の満足感が薄らいでしまうことが多いので余り用いない方が良いだろう。 ただし V7 - I という進行をみる限りは、 同主調のハ長調と全く同じという点を見ていただきたい。 このような長調と短調の交流については、 第九章で転調を説明する時に詳しく述べる。

以上、短音階の和音について簡単に説明したが、 要するに短音階も長音階と同じように考えれば良いのである。 短音階には独特の隠微感のために長音階より自由な進行が可能だけれど、 言い換えればそれは誤りに気付きにくいということである。 特に増二度のような長調にはない音程には注意が求められる。

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制作/創作田園地帯  2000/08/31初出
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