創作田園地帯 | 和声学

第八章 変化和音

通常の三和音や七の和音に嬰変記号を加えると、 その調に属さないような新たな和音ができることがある。 このようにその調に固有でない 臨時に変化した音を含む和音を変化和音という。

他のいずれの調にも属さない変化和音もあれば、 他調の和音と同じ形の変化和音もある。 後者の場合は変化和音を一時的転調や他調和音の借用とも見ることもできるが、 全く単独で唐突に使われた場合を変化和音というのである。 尤もこれらを厳密に区別することは難しい。

変化和音は多種多様で無数に作ることが可能だが、 本章では変化和音の中でも使用されることの多い 古典的な変化和音について述べよう思う。

増五度の変化和音

旋律的に経過する進行を柔らかにするために、 主要三和音や二度の和音の五音を半音上げることがある。 この変化和音は短調では用いられず、もっぱら長調でのみ用いられる。

増五度は短六度と異名同音関係にあるが、 これを長三度と同時に響かされると強烈な不協和音となる。 したがって II を除く変化和音は非常に鋭い不協和音となるが、 旋律的な流暢さのためにそれ程の不快感は伴わない。 この変化和音は旋律的な半音変化から生ずるのであるから、 増五度は更に半音上昇することによって解決される。

半音階的な旋律運動をするが、 古典的な解釈ではこの半音階はもっぱら旋律的な修飾に過ぎない。

増六度の変化和音

増六度の変化和音は主に短調における下属和音の変化として用いられ、 長調で用いられる場合は短調の一時借用であることが多い。

いずれも下属和音の変化であるから普通は属和音へ連結する。 その際、半音上げた増六度の音は更に半音上げて解決すると良い。

譜例の1の和音は増六の和音又はイタリアの六と呼ばれる。 変化音である根音や増六度を構成する低音を重複すると不協和を強めてしまうので、 この和音の重複音としては五音だけが可能なのである。 増六の和音は包み込むような満足感のある和音なので、 楽曲の盛り上がった所の和音として使用されることがある。 連続五度に注意して次のように属和音へ続ける。

増三四六の和音フランスの六とも呼ばれ、 これも属和音へ続けることが多い。

最後の増五六の和音ドイツの六ともいい、 これも属和音へ連結する。 しかし連続五度などを避けて直接に属和音に解決せずに、 間に増三四六の和音や増六の和音、 あるいは主和音の四六などを介してから属和音へ続けることがある。 ただし増五六の和音と属和音との連結における連続五度は、 モーツァルト五度といって使用しても構わないことになっている。

ナポリの六の和音

次の譜例のような 二度の変化和音をナポリの六の和音といって N6 で表す。

ナポリの六は音程だけを見れば長三和音であり、 形から見れば二度の和音の変化である。 しかしもっぱら下属和音の代理として 旋律的な流暢さをはかるために用いられる。 つまりナポリの六は下属和音の変化として扱うのであるから、II6 の 三音が実質的に根音の役目を果たす。 例えば完全終止の準備として主和音から下属和音、 そして主和音の四六へと進むことがあるが、 この際に旋律を半音階的に動かせるように 下属和音をナポリの六に変化させることがある。 これが下の譜例の1である。

譜例の3のように主和音の四六ではなく直接に属和音に連結することも多く、 この場合に生ずる対斜は気にせずにつなげることができる。

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制作/創作田園地帯  2000/12/18初出
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