旋律的な装飾として和声音以外の音が使われた時、 この和音構成音でない音を非和声音という。 非和声音は和声外音とも呼ばれ、 和声的には一時的な不協和音を成すが、 その旋律的な滑らかさのために不快感は少ない。 不協和音であるから解決が必要であり、 原則として隣接した和声音へ進むことで解決を行う。
前の和音の一音が引き延ばされて次の和音と不協和音を成すことがある。 延着する不協和音を含む音を掛留音と呼び、 やがて二度下行によって解決して先の和音に安定する。
譜例の1は通常の和音の形である。 この和音においてソプラノの進行を遅らせると譜例の2のようになる。 つまり3のように前後の協和和音の間に不協和音を含んだ形が存在することになる。 このように掛留音は、前の和音における予備、不協和和音の状態を生み出す掛留、 そして本来の進行を行って安定するための解決、という三段階を持っている。 掛留音は二度の下行によって解決するのが本則であるが、 稀に二度の上行によって解決されることもある。 特に掛留音が導音である場合には主音へ上行するのが常である。
上の譜例でもそうであるように、 掛留は前の旋律が引き延ばされて未だに次の和音に進んでいない状態なのだから、 解決先と同名の音は空席にしておいた方が良い。 上の場合、掛留を含む和音には導音(属和音の三音)が欠如しており、 これによって解決した先で和声的な充実が謀られる。 もっとも解決先が根音である時はこの限りではない。 なお下属和音から属七への進行における七音の予備と掛留音との関係を類推されたい。
また掛留音と解決音の間に、 前後の和音と関係のない音を修飾的に補助音として挟む事ができる。
掛留は一声だけでなく二声による二重掛留もある。 一声と同様に不協和音を作ることもあるが、 次の譜例のように四六の和音として用いられることもしばしばある。 これは不協和音ではないから厳密には非和声音ではないが、 その性格からいって掛留の範疇に含める。
掛留が何の予備もなしに行われるならば、 これを変過音とか倚音などと呼んでいる。 変過音は掛留とは異なるが扱い方は掛留と同じように考えればよい。 即ち二度上行か二度下行で解決し、解決音は重複せずに空けておくと良い。
下行の際は長二度と短二度のいずれでも良いが、 上行ならば短二度の半音進行の方が望ましい。 そこで上行する時は予め半音上げておくと良い。 ただし解決先が導音である時は、上行であっても長二度の全音進行で構わない。 譜例の4のように二音以上の変過音も存在する。
後続の和音中の一音が前の弱拍に置かれる。 この短い先駆を先取音と呼ぶ。 先取音へは順次進行でも跳越進行でも良い。
譜例の2のように二度下行する旋律が、 二度上がって三度下がるというふうになるのも先取に含める。 ただしこの場合は逸音として扱われることもある。
和声音と和声音を音階的につなぐものを経過音という。 経過音は音と音を貫いて進むので刺繍音と呼ばれる場合もある。
経過音は半音階的な進行をすることもできる。 いずれにしても次の和音に進む時は、 経過音を和音構成音の中に解決した後で行うと良い。
和声を保ったままで、 同一音に対して二度の音を修飾的に加えるものを補助音という。 つまり和声音以外の音へ二度で進んだ音がすぐに元の音に戻るのである。 補助音が元の音の上に配置されて凸になる時は長二度でも短二度でも良いが、 下に配置されて凹になるときは短二度の半音進行が良く、 そのために補助音で半音変化が起こる。
上の2や5の場合は長二度進行でも差し支えないけれど、 それでも補助音がごく短い音ならば半音である方が良好である。 譜例の6のように同一音に対して二つの補助音が挿入される場合もある。 また補助音はいつでも二度で進行するとは限らず、 跳越で和声音の外へ進んだ音が二度進行で再び和声音に戻るような場合もある。 この場合は跳越する経過音と見なせば良いだろう。
補助音は経過音や先取音と組み合わされて使われることもあるが、 補助音も経過音も同一の和音内で使う方が良く、 一旦和声音に解決してから次の和音に進む方が良い。 ともかくこれらは不協和音なのだから進行には充分な注意を要したい。
一声が和声進行とは全く無縁に同一音を保ち続けることがあり、 これを保続音(持続音)と呼ぶ。
譜例ではバスに保続音が使用されている。 保続音には主音か属音が用いられることが多く、 その開始部と終止部では保続音を含めて和音を構成する。 それ以外の中間部では残りの声部で和声を作る。 この場合はバスを除いた三音で和声を構成しなければならない。 よってバスを除いたテノールが実質の低音である。 三和音では五音が省略可能であるが、稀に根音を省略することもある。 常に保続音を無視しているよりは、 たまに保続音を含めた和音を用いることが大切である。
保続音は上の譜例のように音を長く伸ばし続けても良いし、 或いは短い音符でリズムをとることもできるし、 細かいトリルの場合もあるし、 更には修飾的な音符を加えた進行をすることもある。
保続音は元々パイプオルガンでペダル鍵盤の用法だったので、オルゲンプンクト(オルガンポイント)とかペダル音などと呼ばれることもある。 もちろん低音以外の声部で使われることもあるし、 また二声部で同時に保持されることもある。 甚だしい場合には全曲を通じて同じ音を奏し続ける事もある。
制作/創作田園地帯
2001/04/24初出
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